前回はクベルカ・ムンク式の計算の導出について説明しましたが、今回は、その式を利用した不透明塗膜の調色定理について説明します。
不透明膜のレシピ計算は基本的には二定数法が使用されます。
 
前回の計算で説明にあるように、不透明レイヤーにおける吸収と散乱の比は表面反射率によって一意に決まり、以下のような式になります。
 
3901
 
光の粒子が顔料粒子に遭遇して吸収または拡散される確率は、顔料の分布密度、つまり顔料の色材濃度に比例します。
顔料粒子の数が2倍になると,光が顔料に衝突する確率も2倍になるということです。
 
 3902
 
また、吸収と散乱の効き方(効率)は、屈折率など顔料の性質、顔料のサイズや形状、ビヒクルの性質などに影響されます。
また、色材を混合する場合、例えば色材Aと色材Bの混合では,各色材の吸収係数と散乱係数に加法性が認められることがわかっています。
A、B、AB混合の各吸収係数をそれぞれKA  KB  KM
吸収係数をそれぞれSA  SB  SMとすると、
 
3903
 
この加法性を利用して調色結果を予測することになります。
吸収および散乱係数は塗膜中の顔料の分布量に依存するため、たとえば、ある色材Aの色材濃度をCAとし、その単位濃度あたりの吸収,散乱係数をそれぞれ3903 02, 3903 03とすると、
 
3904
 
ということになります。
 
複数の色材を混合した場合は、
 
3905
 
ここで、
3906: 単位濃度あたりの吸収係数
3907 : 単位濃度あたりの散乱係数
3908: 顔料の色材濃度
 
3909
 
3910 は混合物の反射率Rを測定することで求めることができます。
 
 3912
 
3913
 
これら各色材の単位濃度あたりの吸収係数、散乱係数は、それぞれの色材で一定だと考えられるため、これらの値はデータベース化し、そここら引き出して使用します。
 
3914
 
ターゲットとなる混合色のKM/SM(つまりターゲットの反射率R)を得るために必要なカララントの色材濃度(C1,C2,C3…)は、各波長ごとの等式にK、Sの値を埋めることで算出することが可能となるわけです。
 
そして、単位濃度あたりの吸収係数3915、散乱係数3916 のデータベースを基礎データ(もしくはキャリブレーションデータ)と呼び、このデータをベースとなる色材に対して用意しておかなければなりません。
 
 

◆基礎データの構築

 
3917
 
各色材におけるKとSの決定
 
不透明膜の反射率は吸収係数Kや散乱係数Sの絶対値ではなく,その比(K/S)に依存します。このため、KおよびSは標準素材(通常,二酸化チタンの白を使用)の散乱係数Swを変動しないリファレンスとして、このにSw対する相対値として定義します。
また、二定数法は十分な隠ぺい力のあるコート層を対象として適用されるため、白色とのミックスによりキャリブレーションデータを作成することになります。
 
まず、100% ホワイト マストーン(十分な膜厚を持つ純色) は非常に重要です。
 3918
 
次に各顔料と白色のレットダウン(段階配合展色サンプル)を作成・測定します。
 
 3919
 
例えば、
Color     :             White
100%     :             0%
60%       :             40%
50%       :             50%
30%       :             70%
20%       :             80%
10%       :             90%
5%         :             95%
 
CWの顔料濃度の白とKA、CAの顔料濃度の顔料Aをミックスしたサンプルパネルを作成し、このパネルの反射率Rを測定することでミックスのKM/SMを求めます。
 
3920
 
それぞれの色材の混色では吸収と散乱に加法性があるため、次の加法式が成立します。
 
3921
 
右辺の分子と分母をSWで割って、
 
3922
 
ここで,ωM=KM/SM, ωW=KW/SW, ωA=KA/SAとおいて、
(各ωは反射率から算出可能)
 
3923
 
KA = SAωA なので、
 
3925
 
移行して、
 
3926
 
となり、色材Aの散乱係数の白の散乱係数に対する比が求まる。
また、SA = KAA なので、
 
3927
 
となり、色材Aの吸収係数の白の散乱係数に対する比も求まる。
 
Swは白の色材濃度Cwによりリニアに変化するため、
白の単位量あたりの散乱係数3927 02を用いると、
 
3928
 
白色の単位濃度の散乱係数に対する顔料Aの吸収係数をKAW 散乱係数をSAW すると、
 
3929なので、
 
3930 
 
3931
 
となる。
 
色材Aの色材濃度をCAとして、白の単位濃度の散乱係数に対する顔料Aの単位濃度吸収係数を3935
単位濃度散乱係数を3936とすると、
 
3932 なので、
 
3933 
 
3934
 
となり、Aの単位色材濃度当たりの白の単位濃度の散乱係数に対する顔料Aの単位濃度吸収係数を3935
単位濃度散乱係数を3936が求まる。
 
  • 調色データベースは各色材に対して、色材濃度全域に関する吸収と散乱のデータを保持する必要がある。
  • また、ここでの色材濃度は,CA+CWにおけるCAの比を指し,全体のボリュームからのCAの比ではないことに注意する。
  • これらのデータは、白色(リファレンス)とのレットダウン(段階的配合展色サンプル)から求めておくことになる。
  • 理想的な色材では色材濃度とKAW,SAWは一般的にリニアな関係となる。
    (必ずしも直線的なリニアリティーが無い場合がある➡クベルカ・ムンク理論の問題点)
  • 各波長ごとに、[KAW ― 色材濃度]は異なる傾き3937をとるため、各波長ごとのKAW,SAWをデータベース化する。
 
 3938
 
<測定誤差に関する注意事項>
KAWおよびSAWは顔料A、白色W、ミックスMの3つの反射率測定から算出される。
この測定値には測定誤差が含まれるが、ミックスMの反射率ρMが白色Wの反射率ρWもしくは顔料Aの反射率ρAに近いと、(ωMW)もしくは(ωAM)が小さくなり、ωM,ωW,ωAの変動がKAW,SAWの値に大きく影響するようになる。
このため、反射率の測定誤差がKAW,SAWに与える影響が大きくなってしまう。
 
 3939
 
黄色,赤,オレンジなどの明るい色材では長波長部の反射率が白色リファレンスの反射率に近く、
白色とのミックスで正確なKAW,SAWが得られないケースが生じる。
 
◆ブラックリファレンスによる対策
 
上記のような問題が発生する場合、ブラック(リファレンス)を使用することで正確なKWA,SWAを入手する必要がある。
 
<必要な展色サンプル>
  • 白色とブラックをミックスしたパネル:ωM,BW
  • 少量のブラックと色材をミックスしたパネル:ωM,BA
  • 白色単色パネル:ωw
  • ブラック単色パネル:ωB
 
白色(リファレンス)とブラック(リファレンス)のレットダウン(段階配合展色サンプル)
 
3940
 
(例)B&Wのレットダウン配合比
Black     :             White
100%     :             0%
80%       :             20%
60%       :             40%
50%       :             50%
30%       :             70%
15%       :             85%
8%         :             92%
2%         :             98%
0%         :             100%
 
上記と同様の方法で、白色(リファレンス)とブラック(リファレンス)のミックスから、
 
3941 
 
また、色材Aとブラックリファレンスのミックスから、
 
3942
 
(1)の各辺を(2)の各辺で割ると、
 
3943
 
KAWA SAWなので
 
3944 
 
となる。
 
 
 3945
 3946
 

基礎データとして求められた値

 
各波長に対して下記の値がデータベース化される
白の展色サンプル:        ωW=KW/SW
色材のマストーン展色サンプル:  ωA=KA/SA
色材と白の混合段階レットダウン: ωM=KM/SM
白の単位濃度の拡散係数に対する   KAW,SAWが求まる
 
明るい黄色や赤などの長波長エリアに対する対応
黒の展色サンプル:        ωB=KB/SB
白と黒の混合レットダウン:    ωM,BA=KM/SM
色材と黒の混合レットダウン:   ωM,BA=KM/SM
白の単位濃度の拡散係数に対する  KAW,SAWが求まる
 

マストーンの不透明性の問題

KWAおよびSAWを求める計算式では、色材Aの単色パネルのマストーン(白を含まない純色色材の色)の不透明(オペーク)展色パネルからωAを得る必要がある。しかし…
多くの色材では十分な隠ぺい力を確保できない。
そこで、100%のマストーンを必要としないKAW,SAWの求め方が必要になる。
 
 3947
 
多くの色材のマストーン(白を含まない100%色材の色)は厚い塗膜でも十分な隠ぺい力を持たない。
このような色材の色は背景色の影響を受けてしまうため、マストーンのK/S値が変動してしまう。
 3948
 
十分な隠ぺい力を確保するために色材にブラック(リファレンス)を加えた配合物を用意する。
これをブラックレットダウンと呼ぶ。
 3949
 
(例)ブラックレットダウンの配合比
 
              Color     White    Black    
              100%     0%         0%
              90%       0%         10%
              50%       50%       0%
              25%       75%       0%
              10%       90%       0%
              5%         95%       0%
 
<マストーンを使用しないK,Sの求め方>
 
3950 
 
3951
 
マストーンは必要ないが,各パネルは十分な隠ぺい力を持つ必要がある.
 
3952
 
各波長において、求める係数は3952 02の4つのため、各レットダウンのデータから最小2乗法による回帰によってKAWとSAWの値を求めることができる。
(レットダウンの段階サンプルは4段階以上必要)
 
3953
 
各展色サンプルにおいて上記の式を求め、要素を行列として表記すると,
 
3954
 
3955
 
3956
 
とすると
各展色サンプルの式は、
 
3957 
 
とあらわされる。
この回帰方程式の場合の[A]の最小2乗法の解は下記の行列の形で求められる。
 
 3958
 
 
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